詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■『北海道の詩人たち2021(女性詩人編)』(阿吽塾 編集佐藤裕子・柴田望 2021年7月1日)

■『北海道の詩人たち2021(女性詩人編)』(阿吽塾 編集佐藤裕子・柴田望 2021年7月1日)、ついに発行!!(☆祝☆)

 阿吽塾より、おかげ様をもちまして無事出来上がりました。発行に向けご指導、ご協力を賜りました皆様、本企画へご理解を賜り、ご参加戴きました詩人の皆様へ、心より厚く感謝申し上げます。

 編集に携わらせて戴きました。編集に、恐縮ながら佐藤裕子さんと並んで柴田望と記載戴いておりますが、そもそも本格的な本づくりの経験の浅い私が、綾子玖哉さんより貴重な御指導を戴きつつ、原稿ファイルをまとめただけなのですが…。

「北海道の詩の現在の最も豊穣な成果を盛ったと自負する選詩集『北海道の詩人たち2021(女性詩人編)』(阿吽塾)」

「北海道において日々ことばと向き合い、その作品における詩情の豊かさにおいて皆の範ともいうべき詩人の方々に一堂に会していただき、現在における北海道の詩の分野での最も輝かしい逸品を示すとともに、これから詩を書こうとする方々への道しるべともなる本を形とすることでした。」(綾子玖哉)

 もの凄い一冊が出来上がりました。そして、今回ご参加の尊敬する素晴らしい詩人の皆様が北海道詩人全員ということでもなく、他にも凄い詩人の方がたくさんおられるのが北海道です。豊穣な《詩の國北海道》の凄まじさをご体感戴けましたら幸いです。

 じつは若い世代へ向けて、ぜひ詩に興味を持ってほしい、若い世代の方たちに読まれ、新しき詩才が開花されますことの願いから…高校や大学の図書館への開架願いなどを展開しており、今回はあまり謹呈中心ではご用意致しておりません。もしご興味戴けましたら、私から阿吽塾へ連絡致しますので、DM、メッセンジャーなど、ご連絡戴けましたら幸いです。(頒価 税込2,000円となります。)

 表紙の絵は画家・紙田彰作、「次元のかたまり・3」〈Super‐String〉(2007年)です!!
*

■『北海道の詩人たち2021(女性詩人編)』(阿吽塾)

倉内佐知子

 津軽 ひもろぎ わしづかむもの
 故里(リク) 津軽 たゆたうみどり逆立つ水底(みなぞこ) チッチッ
 梵 地霊ものがたり百日目のオン エア・・・オフ
 朝がはじまってまだ終わらない

櫻井良子

 遛(リュウ)鳥(ニャオ)
 月のほとり、で
 〈鯨瞰図〉
 〈月虹〉
 〈そぞろ〉
 回文
 「傍観者の部屋」
 銀竜草

佐藤裕子

 リリスの娘たち

田中聖

 九頭竜座
 プール
 洋紫荊
 ニゲラ(黒種草)
 ブルーベリー
 美術館で
 夜景

中筋智絵

 風を掬う
 綿雪の木
 森の墓標
 十月の野に
 残響

橋本征子

 キャベツ
 そら豆
 ブラック・オリーヴ
 プラム
 オレンジ

番場早苗

 林檎期
 砂の上で 波のように鳥のように
 呼人を過ぎる
 奔る春
 たすけてくれ
 前は海

松本莉鼓

 雨降り
 お道化うた
 歩行
 懇願―終止符の舞―
 踊り人
 無声(むせい)放電(ほうでん)

宮脇惇子

 海境
 舌を遊ばせて
 雪化粧
 秋の日
 桜、散る

森れい

 かえしうた
 旅の途中  祖国
 うさぎ  成都
 錺り屋 Ⅱ
 錺り屋 Ⅳ
 朝のとびら

鷲谷みどり

 のっぺらぼう
 きりんのお酒
 宝石おばさん
 フランケンシュタインの怪物
 留守番

渡会やよひ

 女友達
 転生
 バス停
 訪問者
 Wait for
 漆(しつ)は、

*

■(編集後記より)

・当企画「北海道の詩人たち」について、女性詩人編・男性詩人編で本を分けるのではなく、合冊にしてアイウエオ順にすべきという案もありました。現在は小中学校の出席番号も性別では分けないと聞きます。「差別」と「区別」についての議論は真剣に行われなければなりません。芸術表現における「差別」と「区別」。ローリング・ストーンズの名曲「ギミー・シェルター」はライブではミック・ジャガーとリサ・フィッシャーが歌い、リサのパートをレディー・ガガファーギーのような有名ゲストが歌うこともあります。クイーンとデヴィッド・ボウイの「アンダー・プレッシャー」は、フレディ・マーキュリーのオリジナルはもちろん、追悼コンサートでのアニー・レノックスのバージョンも感動的です。日本の紅白歌合戦は「差別」なのだろうか…。色々悩みましたが当企画は女性詩人編・男性詩人編に分け(どちらに参加されるかは当然詩人の御意志を尊重させて戴き…)、レディ―・ファーストでの発行となります。実はこの一冊をお届けしたかったというのが、大きな理由です。作品をお読み戴きたく。尊敬する詩人の皆様による極めて詩質の高い、豊穣な詩世界を御堪能戴けましたら幸いです。もう一冊も、ぜひお楽しみに。(柴田)

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■「晨」第23号(代表・中尾敏康氏 2021年6月5日)

■「晨」第23号(代表・中尾敏康氏 2021年6月5日)を拝読させて戴きました。誠にありがとうございます。
 二宮清隆さんのエッセイ「合評会」に、石原武氏の言葉「二宮君の詩はドキュメント詩だ」との評、対象の細やかな動きや心象の記録、その時その場所の経験を読者に追体験させる二宮さんの力量を石原武氏は見抜いていたのだ。コロナ禍で合評会がやりにくくなりましたが、批評、激励し合う合評会の場を懐かしく想います。
 広瀬大志氏による原島里枝詩集『耳に緩む水』(七月堂)の書評「緩む水に咲く耳を追って」を興味深く拝読。「水」の姿の織り込み、「水」が言葉を綴る。その象形は「死生観に裏打ちされた儚さ」、「詩的宇宙を表象」、「憂いと優しさを秘めた希望の歌」を秘め、音楽のように「ゆるぎないもの」へ触れる。美しいこの詩集をめくると、水の流れを知覚できそう。詩は一滴の雨から海を導き出す。
 中尾敏康氏の作品「音」、言語によって、暗闇の中の光のように、沈黙に顕れる、感情を伴う「まじりけのない意味を持っ」た音の記憶、発せられたのは一回限りのはずなのに、遠い時間を超えて詩が蘇らせる。音は「完結を阻」む。生きている。

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「詩めーる旭川」第19・20数集 合併記念号ー富田正一 追悼号ー(旭川詩人クラブ 2021年6月25日)

旭川詩人クラブの「詩めーる旭川」第19・20数集 合併記念号ー富田正一 追悼号ー(旭川詩人クラブ 2021年6月25日)

冒頭に富田正一さんの遺稿「旭川詩人クラブ誕生」、
富田さんが名寄から旭川へ活動を移した頃のこと、下村保太郎との温かい出会い。
東延江さん、出雲章子さん、荻野久子さん、沓澤章俊さん、立岩恵子さん、森内伝さんによる追悼文、
旭川詩人クラブメンバーによる詩・エッセイ。
巻末には1977年の発足当時から現在までの44年の「旭川詩人クラブの歩み」。
同封された東延江さんからの手紙には、最終号とあります。

柴田はエッセイ「二〇一六年 第三〇回詩画展 講話と〝詩と遊ぼう〟」で
初めて旭川詩人クラブの集いに参加させて戴き、
東延江さんの講話「昭和初期の旭川の詩人たち」を拝聴した2016年11月のこと、
初めて富田正一さんにお会いしたときのこと(その場には佐藤比左良さんもいらした…。)、書かせて戴きました。昨日のことのように想起致します。(畏れ多くも拙稿、先日東延江さんに御精読戴き、お直し戴きました。)
そして富田さんに捧げる詩篇「領域」を寄稿致しています。

コロナが落ち着いたら…、ぜひ最後の集まりに参加させて戴きたく存じます。
長い歴史を持つ、旭川詩人クラブの活動が終わろうとしています。
*

「 領域 」  柴田望

報道と市の認識に「隔たりがある」
隔たりが招いたのか
調査する側の都合で変わるのか

教科書が笑う
当時の航海技術では捕虜を運べません
シベリアに抑留なんてありえない

いじめか、いじめではないか
シャベレルカ、シャベレナイカ

加害者の中から生まれたのか
どちら側かを決めるのは力か

教科書から消したのだ
黒珊瑚と呼ばれた詩人が
少女の心に寄り添い書いた記事を*

九州大刀洗飛行場、加世田市万世飛行場で
死地へ赴く仲間を見送った
十八歳で復員、これからは心の時代だ
「拠り所」を築くために
十九歳から九十一歳までの七十二年間
声なき声 
言葉にならない言葉
表現の自由に生涯を賭けた
少年兵のいくさは終わりましたか

続きますか
領域が当然のごとく
奪われるものとしてある限り

*黒珊瑚(小熊秀雄)署名記事「北都高女生山田愛子が投身自殺するまで」(『旭川新聞』大正十二年) 金倉義慧著『北の詩人 小熊秀雄と今野大力』(高文研)に全文収録。

 

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■「グラフ旭川」6月号に、「旭川の詩誌「フラジャイル」第11号が5月刊行&同人の星まゆみさんが第3詩集『ひだまり』を発行」!!

■「グラフ旭川」6月号に、「旭川の詩誌「フラジャイル」第11号が5月刊行&同人の星まゆみさんが第3詩集『ひだまり』を発行」!! ご紹介戴き、誠に、ありがとうございます。第11号について「多彩な作品がひしめく一冊」!。星まゆみさんの詩集『ひだまり』(2021年5月14日発行 フラジャイル)について、「深い洞察力と繊細な描写が印象に残る」☆

■北海道の詩人なら誰もが読んでいる、村田譲さん(北海道詩人協会会長)のブログ「空中庭園な日々」に、「フラジャイル」第11号について(5月17日)
http://blog.livedoor.jp/gliding_flight/archives/2208195.html

星まゆみさんの詩集『ひだまり』について(5月15日)
http://blog.livedoor.jp/gliding_flight/archives/2207871.html

大分県詩人連盟のブログ「○受贈詩誌・詩集へのお礼98」に、旭川の詩誌「フラジャイル」第10号について(4月24)
http://oitashijinrenmei.blog.fc2.com/blog-entry-478.html

ご紹介戴き、誠にありがとうございます。新しい普通を強いられる時代に、小誌の文学活動への応援を戴き、嬉しく、心より感謝申し上げます。

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■詩誌「指名手配」第3号(2021年夏 編集発行人・佐相憲一氏 発行所・文化企画アオサギ)

■詩誌「指名手配」第3号(2021年夏 編集発行人・佐相憲一氏 発行所・文化企画アオサギ)が発行されました。佐相憲一さんの詩論、GOKUさん、吉峯芙美子さん、若宮明彦さん、遠藤ヒツジさん、佐相憲一さんのエッセイ、新たな同人あおい満月さん、井上摩耶さんが加わられた全国の気鋭の16名の詩人による、それぞれに時代に対峙された凄まじい詩作品。どの作品も魅力的で、後日感想をアップさせて戴きます。その一人一人の詩人の経歴や活躍なども収められた見事な編集。美しき装丁。表紙をめくると「供述調書」として、現代の情況における詩の時間のアリバイが記されています。
 恐縮ながら柴田も同人末席に加えて戴き、今年2月9日に逝去された、川村兼一さん(100年以上の歴史を持つアイヌ民族の私設資料館「川村カ子(ネ)トアイヌ記念館」(北海道旭川市)館長)のこと、2018年にまちなかぶんか小屋で拝聴した講演について書いた詩篇を、この「指名手配」第3号(14ページ)に掲載戴いております。4月17日、コロナ感染予防の厳重な体制で行われた恵庭市「in未来日記」のイベントで朗読したものです。

「壁-川村兼一さんへ」in未来日記・恵庭 2021年4月17日
https://youtu.be/tGjtY-wN41s

「 壁 」  ー川村兼一さんへ
*

ベンジャミン・フランクリンはドーズ法で
インディアンから土地を奪った
アリゾナニューメキシコ
リザベーションに押し込めた
新渡戸稲造とホーレス・ケプロン
ドーズ法を応用した
言葉も宗教も同化すれば滅ぼせる
結婚式も葬式もイオマンテも禁じられた

新渡戸稲造の「植民政策学」、アイヌと同じようにすれば
朝鮮、韓国、中国、台湾も
植民地にできると北大で教えた

天然痘菌だらけの毛布で
アメリカはインディアンを殺した
淡路から来た屯田兵
女性の古着に結核菌を擦りつけてアイヌの家に配った
結核 らい病 梅毒 天然痘
松前藩が本州から持ってきた
アイヌの病気だと本に書かれた

北海道には四千八百ものアイヌ語の地名
関東以北はアイヌだった
二万年前から日本にいた
先住民族として認める)(土地は返さない)

琉球は二万三千年前
当時はシベリアとアラスカが陸続きで
ベーリング海が無かった
米軍と自衛隊の基地があるので
琉球先住民族として認められない
大和朝廷の渡来人は二千年前に中国や朝鮮から来た

世界中の博物館が先住民族の遺骨を返している
日本だけが返さない
国が 学者が 遺骨を盗む
段ボールにごちゃまぜ 誰の骨かも分からない
博物館へ送るはずが ゴミ箱に棄てている
副装品は紛失したか盗まれている
裁判が行われる 返還しても謝罪はしない

広島と長崎に落とされた原爆は
米軍がインディアンを騙して掘らせたウランで作られた
アリゾナニューメキシコ
ウランを掘ったインディアンは
癌になって死んでしまった

ホピインディアン理事国のパスポートで
広島にやってきて謝罪した
「私たちが掘ったウランで作られた原爆が落とされた」
アイヌも参加しろと言われて
原発は止めよう」と訴え
九〇年にはロンドンからモスクワまで走った
ドイツでは大歓迎された

今日は知里幸恵さんの生誕祭
近文小学校の近くに住んでいて
ユーカラを残して
大正十一年、『アイヌ神謡集』という本になった
イギリスからジョン・バチラーがやってきて
ユーカラはすばらしいと言った
金田一京助博士がノートをたくさん持ってきた
世界五大叙事詩の一つである
十七歳の知里幸恵がローマ字で近い音を記録して
二年後に出版された…

講演が終わると ライトは落ちて
白い刺繍の入った紺色の民族服を脱ぎ
ジーパンとネルシャツ 帽子を被り
誰だかわからなくなって
人混みに消えていった
*

※二〇一八年六月八日、まちなかぶんか小屋(旭川市七条通七)の最前席で拝聴した川村兼一氏(川村カ子トアイヌ記念館館長)の講演「知ってほしい、近文アイヌの歴史」を想起して。

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■田中さとみ『百式』(現代詩書下ろし一詩篇による詩集 懐紙シリーズ第五集 阿吽塾刊)

田中さとみさんから、『百式』(現代詩書下ろし一詩篇による詩集 懐紙シリーズ第五集 阿吽塾刊)を戴きました。阿吽塾からもお送り戴きました。幸せです。最高です。戦慄を覚えています。心より感謝申し上げます。

 「side-Qの断片とsuicide-Rを縫合する
  センリツの横顔にシトラスを並べる」

 30年以上前に、百式という金色が出てくるテレビ番組を、リアルタイムで見ていました。sideはスペースコロニーのことで、ザーン、ハッテ、ムンゾ、ムーア、ルウム、リーア、ノア、ガイアの8つでした。星の巡りを強烈に意識させる番組で、土曜日の放送でした。週明け、男子は誰もが熱く、語っていました。

 「硝子玉をポケットから取り出そうとする
  
  放射状に床にこぼれていった

  ミドリの瞳の中に無数の色が映えた

  鈴の音を鳴らすように逃げていく」

音も、色も、重力も、すべての時間も止まります。
そして、迷い込むのです。

「円卓を囲みながらお茶会をしているテンプラの
 ぬいぐるみ(リムセ)たちはビスケットをこぼし
 中空の回りを巡回している」

リムセは、アイヌ語(踊り)でしょうか。

球体間接人形を、私も、持ち上げたい。

たぶん、百回読みます。

空からの恩寵を、秘密を、アスタリスクだけのページも、剥き出しにされた言語の有機性の高い一篇を、お贈り戴き、ありがとうございます。
心より感謝申し上げます。

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■ 「壁 (故郷憧憬)」 柴田望 二〇一七年二月二十五日(土) 旭川市中央図書館主催 「サウンド・音楽による安部公房『無名詩集』朗読会」

「壁 (故郷憧憬)」  柴田望
*

生は影の歩みを超えて行く…
二〇一七年二月二十五日(土) 旭川市中央図書館主催
サウンド・音楽による安部公房『無名詩集』朗読会」
二階視聴覚室で、詩とイメージ画像のプロジェクター映写
安部公房が所有していたシンセサイザー(EMS-AKS)の音源を使用
《東鷹栖安部公房の会》は二〇一二年に結成
安部公房が小学二年から三年の間に通った近文第一小学校に
二〇一四年、記念碑を建立
東鷹栖公民館の事務室でビニールに包まれたガリ版刷りを手にとる
作家の手により「砂」と書かれた色紙や
川端康成から送られた手紙のコピーを展示
東鷹栖支所には、渡辺三子さんが所蔵していた三百点もの資料‥
(札幌から詩人の渡辺宗子さんが来てくれた 展示室を案内した)
安部公房二十歳の詩論 「世界内=在」と「世界=内在」 
詩人は光の点滅で交互に素早く行き来する 大いなる蟻の巣を照らす
解説テキストは『北方文芸』一九九七年二月号「安部公房論」高野斗志美
戦争がひき裂き、掠奪し、ふみつぶした括弧付きの青春
夜が、現存在の直覚として「ソドムの死」を一瞬捉える
執拗に故郷を拒んだ友のために記念碑を建てようとした
日本へ帰らず、中国で客死した金山時夫
黒蟻の紋章を追って、東へ、北へ、山へ訣別 
すべてを包む夜、透明に浄化され尽くした血は 
唯一回限りの生の確証を求めて故郷を再びめざす 
存在の証への希求が本質的な死の季節を逆証する
故郷喪失と故郷希求の両極にひきさかれたはげしい苦しみ
歴史から解放されて 廃疾の最も深い部位へ降りていき
一切を忘れる笑いが滅亡の丘に育つ 壁は名前を廃疾 
感傷の花は拒否されている 廃疾は無駄ではない
恐らく花は咲かない
*

~2017年2月25日(土) 旭川市中央図書館2階視聴覚室にて、
サウンド・音楽による安部公房『無名詩集』朗読会」
(主催:旭川中央図書館・東鷹栖安部公房の会)を行いました。

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